僕がGoogle Analyticsを薦めない理由

「僕がGoogle Analyticsを薦めない理由」 というタイトルを付けてみたわけですが、実際別に「GA嫌い!」ってわけではなく、ディスる気もさらさら無いわけで。

ただ、Googleの事業ベクトルとAdobeやOracle、IBM等のデジタルマーケティングスイートを構成している企業のベクトルは全く異なる、という事実に基づいて考えると、結果として「GAを使う」という選択肢は無いんじゃないか、と思うわけです。一企業人として、というよりもむしろ、デジタルマーケティングに携わる一個人としての私見ですが。

 

なぜいまだにGoogleはABテストツール(Google Web Test)が貧弱なのか、なぜCRMやCMS、CCCMなどのソリューションを持たないのか。

Googleほどの資本・資材・技術があれば、各種ソリューションベンダーを買収して一環したソリューション群として組み込むことなど容易だと思います。にもかかわらず、それをしない。今日の「デジタルマーケティング」という観点に立てば、Googleはもっと進化していて然るべき存在なのに。しかしそうなっていないのは何故だろう?

その答えは自身の中では明白で、そもそもGoogleが企業側に立脚していないからだと個人的には思うのです。

市場を単純化して考えると、プレイヤーは「売り手」と「買い手」に二分されます。
この時、Googleは明らかに買い手たる消費者、つまるところの「生活者」の視座に立った企業だと考えられます。メイン事業である”検索”という行為自体が既に「生活者」にとっての利便性を求めたものゆえに、その憶測もさして見当違いではないのではないか、と。

“検索”の順位アルゴリズムなどは最たるもので、もはや使い古された”Contents is King”という指向性、生活者にとって有益な情報(ページ)ほど上位表示されるという事実も、その裏付けとしては十分なものだとも思います。

一方で、昨今のGoogleの事業開発を見てみると、ウェアラブルデバイスの開発であったり、教育や医療分野に進出したりと、IT・インターネット領域を超える分野へと進んでいることも明らかになっています。
これもまた「生活者」の視座に立ったサービスの提供であり、10年後・20年後を見据えた上での展開であると言えるでしょう。

「検索」であったり、ウェアラブルや教育・医療といった生活に密接に結びつくフィールドに身を置くこと。それは、若干飛躍しますが、つまるところGoogleの目指すところが、公共インフラに近しいものなのだと、個人的には想像するわけです。

そして、それらを実現するための構成要素は何かといえば、それはやはり「データ」なのだと思うのです。「データを用いて個々人の生活を豊かにする」というのが、一つのGoogleの理想型なのではないか、と。(実際は知りませんが。)

ということは、なぜGoogleは「Google Analytics」たるウェブアクセス解析ツールを持っているのか、ということも自明なのではないかと思うわけです。

まぁ、言わずもがな、これはつまり「データの収集」が目的だと考えられます。自分達のリソースだけでは得られない情報もしっかりと貯めこむ。貯めこまれたデータ自体を直接的に自分達の利益に転化するわけではないものの、やはり本来外部にしかない他サイトのデータを内部化できてしまえば、それ自体が分析の対象となるのは当たり前のこと。そして、その大量のデータがあれば、その個々のデータから類推して個人の特性を明らかにしようと思うのも自然の流れだと思います。こと「生活者」に視座を置く以上、彼らの指向性がそこに向くことも自然なものだと思います。

その結果生まれたのが、Google Analyticsのインタレストカテゴリ機能であるということも想像に難くないところしょう。現状ユーザーサイドにこの情報が展開されていること自体、ある種の派生的気まぐれ、ぐらいに僕個人としては捉えていたりします。

そんなこんなで無償ツールの見返りとして得られたデータに基づき、Googleの目指すところ、という部分に立ち返っていくと、ある程度私がGAをさほど好まない理由も明らかにできるわけですが。

 

その前に少しだけ話を脱線します。デリック・メイの話です。

世界屈指のクラブDJたるデリック・メイは数年前のDommuneへの出演時に、こんなことを言っていました。

「いまや小さい子供にとってiPhoneやiPadがあることは当たり前だ。今僕たちがその革新的だと感じ、楽しんでいるものは、10年後の成長した子供たちにとって、もはやつまらないものになっているだろう。じゃあ彼らが大人になったときに何を求めるのかを想像すると、きっとリアルな世界にこそ楽しみを求めるだろうし、ライブハウスやクラブがまた遊び場として活気を取り戻すことになるだろう」

このインタビューは、私にとってまさに目から鱗。今まで「ウェブ」というものに近視眼的に捉えられていたしまっていた自分に気付かされたわけです。そう、ウェブはもはや当然であり、今を生きている私達世代以上に今の子供たちにとっては「つまらないもの」(とまでは言わないまでも所謂「普通」のもの)となってしまうのだということ。

そして、その考えに基づいて考えると、10年後のデジタルマーケティングのフィールドは明確にオンラインではなくオフラインが主戦場へと変様していくのことは、想像に難くないわけです。それこそ、昨今のバズワードたる「O2O」とか「オムニチャネル」なんてものは小さい話で、より本質的なリアル世界meetsデジタルになるのだと思うのです。

 

さて、話は戻りまして。

場はリアル、Googleは生活者の立場に寄り添う、となれば、

例えば渋谷の街を歩いているとします。「ちょっと疲れたからお茶でもしたいな。」てな具合に思い立ち、スマートフォンないしウェアラブルデバイスに「この近くの気の利いたカフェ」なんて吹き込めば、即座にGoogleのエンジンは地理情報と掛けあわせて最適な情報を教えてくれることでしょう。今だってそうなってるわけだから、10年後にはきっと、ウェアラブルデバイスから送られてくる疲労度合いや日々の食事のリズムなども考慮した上で、軽食の有無なども考慮したお店をセレクトしてくれるはずです。もし前日にウェブサイト上でチェックした気になる店があれば、そこを優先的に提示してくれるでしょうし、ウェアラブルの普及率が高ければ高いほど、その時点でのお店の混雑具合まで予測してレコメンドしてくれるのではないか、などと思うわけです。そんなSFはさておき。

一方で、例えばスターバックスのような事業者側からすると、そこで是非自分の店に立ち寄って欲しい!と思うわけで。そんな時、事業者側はきっとiBeaconを使ってユーザーのデバイスにアクセスし、CRMからお客さんの嗜好読み取り、その情報をCCMSに渡してその時に合ったクーポンや新商品の案内をCMSの機能を用いて(かどうかはさて置き)届けようとするでしょう。

そんな時にGoogleのDBとスターバックスのCRMが繋がってしまっていると、これはもう完全に「生活者」の視点としては成立しなくなってくるわけで、いろいろな意味で問題が生じるのだと想像できます。

つまり、CRMやCCMSを必要とするのは、リアルな場においても事業者側に必要性があり、Googleはそれを持ち得ない、というのだと思うのです。

 

そんな考えのもと、改めてGoogle Analyticsについて考えてみると。

これについてはもう、事業者側視点でのデジタルマーケティングツールとしては、これ以上進化することは無いのではないか、という結論に繋がるわけです。ここからCRMやCCMSへとシームレスな展開がなされる可能性は非常に低いだろう、と。

しかし事業者側に身を置くマーケターとしては、市場環境の変化、デジタルマーケティングの方法が徐々に進化・移行していくことを考えると、現時点からその準備運動はしておくべきだと思うわけです。そんな中でいまだに「PVが伸びた」、「UUが減った」みたいな話をしていては、今後のマーケティング市場では生き残っていけないだろう、ということを思うのです。

当然GAのローデータをフィードして様々な仕組みに取り込めば、まだまだ用途は広がるわけですが。しかし10年先のことを考えて、リアルな場を想定したときに、日次のバッチデータで間に合いますか?データの取り込みに都度都度時間のかかる開発プロセスを踏んでられるのでしょうか?

既にAdobeやIBM、Oracle、SalesForceといったデジタルマーケティングベンダーは先を見越してシームレスな製品開発に取り組んでいるのに。技術はどんどん先に進んでいく一方で、人側が全く追いつけていない状況にさらに拍車がかかっては、10年後も「マーケター不在」という状況は変わらないのではないだろうか、と思うのです。

そんなこんなに思いをめぐらしていくと、結果としてGoogle Analyticsはお薦めしない、という結論に至るわけです。

 

 

以上、一個人の妄想です。