『ストーリーとしての競争戦略』

『ストーリーとしての競争戦略』
楠木健

もう五年も前の出版物になったのね。なんか思い出した、およびサイト更新してる余裕がないから昔書いた備忘録を移植。

有効な競争戦略とはいかなるものか。「ストーリー」という軸に沿って、非常に理論的かつ読み解きやすい語り口で綴られる本作。昨今の経営論的フィールドの主流たるものを非常に快活に記述した良著です。

まず、軸足はどこに置くのか。ポジショニング(SP)をどこに置くのか。何をするのかを決めると同時に、何をしないと決めるのか。一方で、他社の模倣を許さない企業文化(OC)の醸成という点に置くのか。

利益を生み出すためのシュートはWTPを重視するのか、それともコスト優位性を重視するのか。そのシュートに向けて、どれだけのパスをつなぐのか。パスの相互連関性が強いほどストーリーは強固となり、強く長くなっていく。

それらの起点となるコンセプトとは、いかに作るべきか。コンセプトという名のフィールドにおいて、いかにプロットし、その間を紡いでいくのか。

そのストーリーを根幹から支える最大のポイント、クリティカルコアとはいかなるものか。一見して非合理的なものであるが、ストーリー全体の文脈の中では強力な合理性を持つものであってこそ、他社の追随を許さないストーリーの核となる。

一つ一つの要素を紡ぎ、その中にクリティカルコアという強力な核を埋め込むことによってこそ、本当の意味での戦略となり、より強固な発展性を生み出すことができる。という理念の基に競争戦略を描く良著。

本作自体、500ページの厚さがあり、それ相応の読み応えもある。しかしながら、著者が本書序盤でも記述する通り、この本そのものもストーリーとしての体裁をしっかりと保つように書かれているため、決して退屈な理論書にはなっていない。
内容自体もさることながら、そういった点でも本作は理路整然としていて良い。

中古車買取りのガリバーや、サウスウエスト航空、スターバックス、デル、その他諸々、昨今他書でも事例として取り上げられることの多い企業を例に取りながら、その戦略性を読み解き、概念化することで非常に分かりやすくしている点もまた面白い。

で、結局この後に読む『ザッポス伝説』も実は本質的には同じことを言っていたり、今呼んでいる『マーケティング3.0』という本も実は本質が同じという、ね。つまるところ、そういうことなんだよね。その辺はまた今度書きますが。

とりあえず本著、読みやすく、かつ論理的な説明がなされていて非常に面白かったです。